明治に入り日本が近代国家の仲間入りを目指す中で、明治4(1871)年に「円」が誕生します
明治18(1885)年に日本銀行が「日本銀行券」として大黒天が描かれた十円券が発行されました
紙幣は偽造防止も含め肖像画が多く盛り込まれますが、歴史上の天皇の忠臣や神社が描かれているものも多く、神社が肖像に描かれている紙幣は6社存在しました
神社が肖像画に採用されているのは下記の6社です
- 建部大社(滋賀県大津市)
- 談山神社(奈良県桜井市)
- 北野天満宮(京都市)
- 護王神社(京都市)
- 宇倍神社(鳥取市)
- 靖国神社(東京都千代田区)
それではそれぞれご紹介していきます
日本初の千円紙幣の図柄となった建部神社
建部神社は滋賀県大津市に鎮座する近江国一之宮で延喜式内式内名神大社、旧官幣大社、現在は神社本庁別表神社です
日本武尊、大己貴命を祀り、創建は第12代景行天皇の御代と伝わる古社です
戦前は建部神社と称していましたが、戦後昭和23年に現在の建部大社と改めています
紙幣発行は日本銀行兌換券として、1945(昭和20)年8月17日で日本で初めて作られた千円紙幣の図柄に日本武尊と二殿並んだ本殿の様子が使用されています
なお、翌年1946(昭和21)年3月2日に通用停止となり、わずか半年強のみの市場流通となりました
現在入手は非常に困難で15万円~20万円程度なのだそうです
建部大社
たてべたいしゃ
鎮座地:滋賀県大津市神領一丁目16-1
主祭神:日本武尊、大己貴命
社格等:式内名神大社 官幣大社 別表神社
巡拝:近江国一宮 神仏霊場巡拝の道
現存する世界唯一の木造十三重塔が採用 談山神社
談山神社は奈良県桜井市に鎮座する旧別格官幣社で藤原氏の祖、藤原鎌足公を祀り、 創建は天武天皇の御代、678年と伝わります
明治の神仏分離以前は多武峯妙楽寺(たぶとうみょうらくじ)と称する寺院でしたので十三重塔も含め現在も仏教色が色濃く残っています
紙幣デザインには現存する世界唯一の木造十三重塔と拝殿が、藤原鎌足肖像画とともに描かれています
日本銀行兌換券として百円、二十円、二百円札に採用されましたが、昭和21年3月2日の新円切り替えにつき通用停止となっています
こちらの旧紙幣もかなり希少価値があるようですが2000円~2万円程度のようです
談山神社
たんざんじんじゃ
鎮座地:奈良県桜井市多武峰319
主祭神:藤原鎌足公
社格等:別格官幣社 別表神社
巡拝:神仏霊場巡拝の道
文人の象徴の総本社、北野神社
京都市上京区に鎮座する旧官幣中社で太宰府天満宮とともに天神信仰の中心地である北野天満宮も紙幣デザインに菅原道真公とともに採用されていました
菅原道真公が大宰府に左遷され803(延喜3)年に没した後、その御霊を鎮めるため北野天満宮天神として947(天暦元)年に創建されました
代々神官を務めたのは社僧であり、仏教色の強い社でした
明治の神仏分離以降は早くより明治4年に官幣中社に列し北野神社と改名しました
これは明治時代では「宮」を名乗るためには祭神が基本的には皇族もしくは皇祖であり、かつ勅許が必要であったという事情があったためです
絵柄には国宝の拝殿が描かれ、菅原道真公も肖像画に描かれています
富国強兵の文人の象徴として菅原道真公は人気があったそうです
日本銀行兌換券、日本銀行券ともに北野神社の絵柄が発行され、昭和21年の新円切り替えまで使用されました
五円券として多く発行されたのか、現在でも比較的容易に入手できます
北野天満宮
きたのてんまんぐう
鎮座地:京都府京都市上京区馬喰町
主祭神:菅原道真公
社格等:官幣中社 別表神社
巡拝:二十二社 日本三大天神 神仏霊場巡拝の道 菅公聖蹟二十五拝霊場
皇統の断絶を救った和気清麻呂を祀る護王神社
一方十円券となれば護王神社、和気清麻呂公です
京都市上京区の蛤門近くに鎮座する旧別格官幣社です
道鏡の宇佐八幡宮宣託事件によって流罪に処せられながらも皇統を守った事績を称えて江戸期最後の天皇である第121代孝明天皇によって和気清麻呂に護王大明神の神号と正一位という最高位の神階を授けました
天皇自らが人臣に対して神階を授けたのはこれが歴史上最初で最後のようです
もともと和気清麻呂の開基である神護寺の護王善神社に祀られていましたが明治7年、護王神社と改称し別格官幣社に列格、明治19年に現地に遷座しました
皇統の断絶の危機を救ったことから勤王の忠臣の象徴として紙幣に採用されたようです
和気清麻呂の正確な肖像が残っていないため、イタリアの版画家・画家で明治時代に来日しお雇い外国人となったエドアルド・キヨッソーネが木戸孝允をモデルにデザインしたそうです
こちらも広く流通していたようで比較的容易に入手できます
護王神社
ごおうじんじゃ
鎮座地:京都府京都市上京区烏丸通下長者町下ル桜鶴円町385
主祭神:和気清麻呂公、和気広虫姫
社格等:別格官幣社 別表神社
巡拝:京洛八社めぐり
武内宿禰命は印刷部長がモデル 宇倍神社
鳥取市に鎮座する因幡国一宮で旧国幣中社、延喜式内名神大社の宇倍神社です
景行天皇から仁徳天皇まで5代にわたり天皇に仕え360歳余り生きたという伝説上の忠臣、武内宿禰命を祀ります
古代髄一の忠臣であったことから紙幣に採用されました
もちろん肖像が残っていないため、和気清麻呂と同じくエドアルド・キヨッソーネが当時の印刷部長の佐田さんをモデルにデザインしたそうです
1円券と5円券、100円券の5種発行されていますが、明治22年発行改造壱圓券と昭和18年発行壱圓券は現在でも法的には有効で通貨として使用できるようです
武内宿禰が描かれている旧券は多数ありますが、宇倍神社が描かれているものは価値があり、3万円前後のようです
宇倍神社
うべじんじゃ
鎮座地:鳥取県鳥取市国府町宮下字一宮651
主祭神:武内宿禰命
社格等:式内名神大社 国幣中社 別表神社
巡拝:因幡国一宮
太平洋戦争に突入した国勢が見られる靖国神社
東京都千代田区に鎮座する靖国神社は、護国の英霊を祀る東京招魂社を明治2年に創建、その後明治12年に靖國神社(靖国神社)と改称され、同時に別格官幣社に列格しました
現在では祭祀の際天皇より勅使が遣わされる全国十六の勅祭社のうちの一社に指定されています
戦争の影響で硬貨用材料の価格高騰や欠乏により硬貨の発行が難しくなったため代替策として少額政府紙幣が第一次大戦より終戦まで計6種類発行されました
その中で昭和17年より21年まで発行されたのが額面五拾錢で靖国神社第二鳥居および神門が描かれています
真珠湾攻撃により太平洋戦争に突入した当時の世相が絵柄に反映されています
政府紙幣は日本銀行券とは違い、政府が発行する紙幣ですのでデザインから印刷まで一貫して凸版印刷に委託され、前後期合わせて約10億枚印刷されました
戦後も資材不足は続きましたが、1948(昭和23)年8月31日限りで通用禁止となりました
こちらもかなり大量に流通しているため新札含めて比較的容易に入手可能です
靖国神社
やすくにじんじゃ
鎮座地:東京都千代田区九段北三丁目1番1号
主祭神:護国の英霊246万6532柱
社格等:別格官幣社 勅祭社
巡拝:全国護国神社会
近代国産紙幣の父、エドアルド・キヨッソーネ
日本の近代国産紙幣についてエドアルド・キヨッソーネを避けては語れません
イタリアの版画家・画家であったキヨッソーネは明治時代に大隈重信から破格の条件で招聘され大蔵省印刷局(現在の造幣局)を指導し、日本の紙幣・切手印刷の基礎を築きました
またその貢献から政府より勲三等瑞宝章を授かっています
お雇い外国人として16年間勤務した間に切手や印紙、紙幣、証券など500点以上も版を彫っています
面白いのは紙幣デザインに武内宿禰命や神功皇后など伝説の人物を書く場合、武内宿禰命は当時の印刷部長の佐田清次さん、神功皇后は印刷部女子職員をモデルにしたというエピソードがあります
近代日本の黎明期ならではのエピソードですね
おわりに
以上紙幣に描かれた神社たちのご紹介でした
比較的入手しやすい紙幣もありますので神社好きならいくつか手許に置いていいかもれませんね